仁徳

『中国故事物語 教養の巻』(駒田信二・寺尾善雄編、河出文庫)

を読んでいます。

これは、3月に『論語物語』(下村湖人著、講談社学術文庫)を読み終える頃に、古本屋さんで見つけたものです。
論語に限らず、中国の故事成語が、たくさん取り上げられていて、それぞれが1~2頁でまとめられています。

『処世の巻』『愛情の巻』を合わせた3巻セットで売られていました。
調べてみると、出版社品切れか絶版になっているようでしたので、古本屋さんで買いました。

平日のランチに出る時に携帯して、信号待ちや食事が出てくるまでの間に拾い読みをしています。
「他山の石」や「臥薪嘗胆」など、知っているつもりだったものが、出典まで遡ると、少しずつ勘違いしている部分があったりして、面白い。

そんな中、「巧言令色、鮮し仁」の項で、大きな感動がありました。

私、もう長い間、心に引っ掛かりがありました。
論語の、「巧言令色、鮮し仁」と「剛毅木訥、仁に近し」についてです。

それぞれの読みと意味は以下のとおりです。

「巧言令色、鮮し仁」
【読み】こうげんれいしょく、すくなしじん
【意味】口先が巧みで、角のない表情をするものに、誠実な人間はほとんどない

「剛毅木訥、仁に近し」
【読み】ごうきぼくとつ、じんにちかし
【意味】剛毅で飾らぬ人間は、(誠実なのだから)完成した徳をそなえたものに近い

私、人当たりが良いと言ってもらうことが多ございます。

私が接する方(相談者、依頼者)は、トラブルを抱えてしんどい思いをしている方です。特に、初めて相談に来られる時には、「弁護士に会う」ということで緊張している方も多い。
そういう方に緊張を解いてもらうために、私は、「角のない表情」をしていると思います。
また、トラブルを法的に分析して見通しを示すためには、言を尽くす必要があります。
なので、よく喋りますし、「口先が巧み」になっているかもしれません。

でも、孔子は、口先が巧みな者よりも、口数の少ない者の方が、誠実だと言っているのです。
私は、10年以上前から、「そんなこと言われてもな~」と、ずっとモヤモヤしてきました。

それが、『中国故事物語 教養の巻』で晴れました。

<以下、ネタバレを含みます>

剛毅木訥な人間でも、「仁(完成した徳をそなえた人間)」に「近い」というだけで、「仁」そのものではない。

孔子曰はく、
「文質彬々(ぶんしつひんぴん)として、然る後に君子なり」

文(形式)と質(実質)とが彬々として(調和して)いることが、君子(徳をそなえた人間)の条件である。

すなわち、多方面に学び(実質)、それを礼(形式)で整理統制することが大事なのであって、孔子も、決して剛毅木訥という荒けずりな態度だけを勧めているわけではないのでした。

とても救われた気持ちがしました。

これからも、学問と礼儀の両方を重んじ、徹して優しく思いやりをもって人に接していきます。

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