りかさんになる覚悟

小説『りかさん』(梨木香歩著、新潮文庫)を読みました。

梨木香歩さんの小説は、他に『西の魔女が死んだ』(新潮文庫)を読んだ程度ですが、どちらも、不思議な世界観が描かれています。
ドカンと感動させられる訳ではないけれど、じわじわ響くというか。
これを「不思議だ」と評価するのは、私が男性だからで、女性読者は非常に共感できたりするのだろうか、など考えさせられます。

<以下、ネタバレを含みます>

お友達がみんなリカちゃん人形を持っているのが羨ましくて、主人公の少女は、おばあちゃんに「リカちゃんが欲しい」と頼みます。
すると、おばあちゃんは、自分が大切にしていた黒髪の市松人形「りか」を少女にあげます。
もちろん少女は、「(これじゃない)」とガッカリするのですが、やがて、「りかさん」が、人と心を通わせる術を持っていることに気付く。
という物語です。

私は、お人形さんをいつも抱いて生活するという習慣がなかったので、少女と「りかさん」の関係に共感するところまで行かず、「ふーん、そんなものなのね」と、外から眺めている感覚で読み進めていました。

そんな状態で、出会ったのが、次の箇所です。

「…人形の本当の使命は生きている人間の、強すぎる気持ちをとんとん整理してあげることにある。…」(76頁)

で、ピクッと反応。

「気持ちは、あんまり激しいと、濁って行く。…」(77頁)

で、ドキッとしました。

この時は、ドキッとしたのがなぜなのか判じられないまま読み進みました。
読了後に、この箇所に戻って再読すると、続いてこうありました。

「…いいお人形は、吸い取り紙のように感情の濁りの部分だけを吸い取って行く。これは技術のいることだ。なんでも吸い取ればいいというわけではないから。いやな経験ばかりした、修練を積んでいない人形は、持ち主の生気まで吸い取りすぎてしまうし、濁りの部分だけ持ち主に残して、どうしようもない根性悪にしてしまうこともあるし。だけど、このりかさんは、今までそりゃ正しく大事に扱われて来たから(人形の中には、正しくなく大事に扱われるものもある)、とても、気だてがいい」(77頁)

私は、「怒り」「悲しみ」「悔しさ」など、激しい気持ちをお持ちの方と関わる仕事をしています。

その方が、澄んだ気持ちで今後の人生を歩めるように。

「りかさん」のような役割も演じられる、「気だてがいい」弁護士を目指して、これからも精進します。

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