私が非常勤裁判官を志望したきっかけは、ある離婚事件の相談者(後に依頼者)の一言でした。
「先生は、離婚専門ですか?」
これに対して、私は、
「離婚の『専門』か?と言われたら、他の事件も手掛けてますし、いろんな事件ができるようになりたいとは思っているんですけど、弁護士登録以来、離婚事件は比較的多く手掛けていて、一般の弁護士よりは多いと思いますし、自分としては、得意にしているつもりではあって・・・」
と答えながら、自分の得意分野について、もっちゃりもっちゃり語っている自分に気付いたのです。
「はい、私は、離婚事件の専門家です。」
と言い切れるようになるために、何かないか。
その時、思い出したのが、会派の先輩弁護士がやっておられた「家庭裁判所の非常勤裁判官」という制度でした。
これをやれば、「専門家です!」と言い切れるんじゃないか。
そう。
要するに、初めは、「肩書が欲しくて」「箔を付けたくて」非常勤裁判官を志望したのです。
でも、やり始めて、すぐに「肩書」や「箔」など、どうでもよくなりました。
それほどの圧倒的な「経験」が得られることに気付きました。
私が配属された大阪家庭裁判所は、離婚調停が集中する部が2つあり、遺産分割調停係が離婚調停とは異なる部に属するという特徴があります。
東京家庭裁判所に次いで事件数も多く、家事事件に関する実務をリードする役割を演じています。
このような裁判所ですから、同じ類型の事件だけれども、中身は全然違う、という事件を短期間に大量に担当することができます。
内容面で処理に迷ったら、裁判官室で机を並べている裁判官に質問すれば、気軽に答えてくれます。
手続面で分からないことがあれば、書記官に尋ねれば、丁寧に教えてくれます。
子どもに関するスペシャリストである調査官とも意見交換できます。
最前線で当事者に接している調停委員にもかわいがってもらえます。
逆に、私が持っている弁護士としての発想や裏事情などは、裁判所のみなさんにも興味を持たれ、重宝してもらえました。
気付けば最初の2年間で、170組のご夫婦の調停を担当しました。
ここまで経験を積めば、何でも来いの状態になります。
もう、胸を張って、「離婚事件の専門家です。」と言えるようになりました。
そして、任期の更新と同時に、遺産分割係への異動が叶いました。
遺産分割は、法律的な論点も多く、一般の民事事件とは異なる特殊な処理がなされる場面もたくさんあります。
同じように裁判官や書記官に助けてもらいながら、経験を積み、2年間で、100件の遺産分割調停を担当することができました。
これで、遺産分割についても、自信が付きました。
そこで、現在は、
「相続、離婚のスペシャリスト」
と名乗っております。
かわいがってくださった裁判所のみなさんへの報恩の思いで、今後も、非常勤裁判官制度の発展に尽くす所存です。
<非常勤裁判官制度一般については、≪こちら≫もご参照ください>