「先生、『膵臓』読みましたよ。」
調停の待合室で、一緒に長いこと待たされている時に、依頼者が話しかけてくれました。
依頼者いはく、何か面白い小説ないかな、と思って、吉森法律事務所のホームページにアクセスして、最近のエッセイで取り上げられていた『君の膵臓をたべたい』(住野よる著、双葉文庫)を買って読んだとのこと。
まずもって、私のホームページやエッセイをこう使ってくれること自体が、とてもとても嬉しい。
そして、小説の感想など、読書に関する話ができることも、至福です。
その依頼者の感想が、非常に興味深いのです。
『膵臓』、感動しましたけど、現実過ぎてしんどい。
自分のしんどい現実から目を逸らすために、本の世界に逃げ込もうとしてるのに、小説の設定があまりに現実的過ぎて、別世界に逃げ込むことになりませんでした。
普段は、ファンタジーなど、設定が現実離れしているものがほとんどです。
とのこと。
なるほど。
たしかに、私も、本を読むのは、現実から目を逸らすためです。
まず、形式について言えば、現実世界の面白くない文章から逃れるために、美しい文章を求めて本を読みます。
また、内容について言えば、頭から仕事を外すために読むのですから、刑事事件ものや法廷もの、弁護士が主人公のものなどは、決して読みません。
相続や離婚を直接扱った小説も避けています。
そのため、サスペンス、ミステリーなどの推理小説は、ほとんど読んでいません。
時代小説でも、剣豪ものや、捕物帳は読みません。
そうなると、読める本が限られてきます。
そのときに、この依頼者のように、いっその事、ファンタジーまで飛んでしまえば、安全なのかもしれません。
また、ファンタジーが身近に感じられました。