日常系ファンタジー

「日常系ミステリー」っていうのはよく聞きますね。

人が死んだり刑事事件が起こったりせずに、穏やかな日常の中で謎解きがなされていく小説のことです。
『空飛ぶ馬』(高村薫著・創元推理文庫)が嚆矢とされています。

その「日常系」っていうのを頂いて、

「日常系ファンタジー」

と名付けていいのではないかと思う小説があります。

私は、以前から、青山美智子さんの連作短編を推しています。

既に文庫化されたものとして、

『木曜日にはココアを』
『猫のお告げは樹の下で』
『鎌倉うずまき案内所』
『ただいま神様当番』
『月曜日の抹茶カフェ』(以上、宝島社文庫)
『お探し物は図書室まで』
『月の立つ林で』(以上、ポプラ文庫)
『青と赤とエスキース』(PHP文芸文庫)
があります。

『木曜日にはココアを』は、もう10人以上に贈呈しています。

めっちゃ良いと感想を言ってくださる人がいる一方、入り込めないという人もいます。

入り込めない理由を訊いてみると、

・登場人物が良い人過ぎて、ついていけない。
・現実社会には、陰で人を褒めていたり、自分の非を素直に認めて詫びる人なんていない。
などなど。

なるほどな~と思いながら、
それでもやっぱり僕は好きやねんけどな~。
それを、どう説明したらええんやろ。

と思索していた時に、

『銀座「四宝堂」文房具店』Ⅰ~Ⅴ(上田健次著・小学館文庫)

に出会いました。

これも、登場人物は良い人ばかりで、カッコ良い大人がジャンジャン出てきます。
そして、私は、読後に、スーっと落ち着きます。

青山美智子さんの小説を受け付けなかった人は、きっと『銀座「四宝堂」…』もアカンのちゃうかな。
と思った時に、なんか解けたように思いました。

<嫌な人だと思ってた人のことも、あるきっかけで、別の見方もできるんじゃないかと思い至り、自分が他人の性質を決めつけていたことを反省する>

<職場で自分のことを目の敵にしていると思っていた先輩が、実は、自分のいない所では、自分のことを褒めて期待してくれていたりする>

<もうパートナーのことが信頼できない、別れたいと思っていたけれど、よく話を聞いてみれば、パートナーも悩んでいて、それでも自分のことを大切に思ってくれていて、対話の大事さが身にしみた>

……なんていうね、良い人ばっかりでは、たしかにありませんよ、現実社会は。
それはその通り。
みんな良い人のはず、なんて思ってたら、余計に傷つくし、足元すくわれます。

でもね、だからこそ、小説の中だけでも、良い人に触れてたいやないですか。
カッコ良い大人の話を聞いてたいやないですか。

現実社会との差を感じて退いてしまうより、現実社会とは違う世界と割り切った上でどっぷり浸かった方が幸せなんちゃいますか。

その方が、少しでも、そんな世界を実現することに近づけるんやないですか。

舞台は日本で、時代設定は現代やから、紛うことなき日常やねんけど、あり得へん夢のような世界を描いてる、という意味で、

「日常系ファンタジー」

…いかがでしょうか?

青山美智子さん、上田健次さんは、そんな風に言われるの嫌かな~。

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