戦前の思想――その1

『爐邊閑想』(奥田正造著、文部省教学局、日本精神叢書27)
という本について

大阪駅前第3ビルの古書店で見掛けました。

文庫本サイズで、薄く、平積みにされていました。
表紙の文字は、旧漢字。紙の雰囲気も相当古そうです。

何の本やろ。
「文部省」ってことは教科書か?サイズからしたら戦前の副教材とかかな?

興味がわいて、手に取ってみました。

紙質は粗悪で製本は雑ですが、活字印刷で一文字一文字に力強さがあります。

奥付を見ると、
昭和15年7月2日発行
現物は、昭和18年9月30日発行の第4刷です。

漢字がすべて旧漢字なのは、戦前のものやからやな。

戦争が激しくなってきて、物資も不足していたはずやのに発行されたのは、「文部省=国」が発行したものやからやろか。

表紙を開くと、「日本精神叢書」の由来が書かれています。

「一、本叢書は、主として我國古來の典籍中より、精神教育上適切なるものを選擇してその要點を解説し、廣く國民をして日本精神の心解と體得とに資せしむることを以て目的とするものである。
 一、本篇は、東京成蹊高等女學校校長奥田正造氏に委囑し、執筆を煩したものである。」

一読して、「うわ~、軍国主義か~?」と、ちょっと退きましたが、文語調で漢文体の文章にはうっとりしました。

戦時中、思想統制がなされていたことや、特別高等警察が取り締まっていたことは聞いたことはありましたし、出版業界で言えば、検閲がなされていて、発禁処分を受けたり、自粛をしたりした出来事も知っていました。

しかし、そのように国民による出版を統制・禁止するだけでなく、国が特定の書物を推奨して発行していたとは知りませんでした。

国は、どんな書物を推奨してたんやろ。やっぱり、天皇崇拝や軍国主義的なものやったんやろか。

と思いながら、パラパラとめくると、巻末に、「日本精神叢書目錄」として、1號から60號までの書名と執筆者名が表になっています。

中には、『歴代の詔勅』など、天皇崇拝そのものなものもありますが、吉田松陰や世阿弥、松尾芭蕉など、軍国主義とは直ちには結び付かなさそうな人を扱ったものも見えます。

ちなみに、執筆者延べ60人のうち、私が聞いたことのある名前は「折口信夫」だけでした。

これ、中身読んでみたら、全部、天皇崇拝や軍国主義に結び付けられてるんやろか。
戦前に国家から推奨されていた書物、執筆者って、どんなんやろ。

いや、待てよ。
これって【戦前のものだからといって全て悪なわけではないのでは】っていう、アレ(最近の私のテーマ)と重なるんちゃうか?

この本の中身は読めるか分からんけど、この目録だけでも、十分に値打ちあるぞ。
(ここらへんは、敬愛する古書ライター・岡崎武志さんが降臨しています)

ということで、好奇心が抑えられず、買いました。
その後、「文部省教学局」「日本精神叢書」について調べたことは、また、次の機会に。

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